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今回のトラブル事例では、インバータを運転せずに通電していただけで焼損したという事例について発生経緯、原因と、予防策を紹介します。
客先で古いインバータを10年以上使っていて、そろそろ交換したいという依頼で交換作業を実施した時の話です。インバータ交換は順調だったのですが、翌日に見たらインバータが焼損していました。なぜこうなったのか、発見したときは驚きと焦りでいっぱいでした。
この事例を知っておけば、あなたも同様のトラブルを防止できますし、後輩や部下、また上司に予防策の重要性を説明できれば鼻高々で、評価も上がりますね。
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1.インバータ交換作業と焼損までの経緯
冒頭に書いた通り、客先にて古くなったインバータを交換するという工事を実施したときに起きたインバータ焼損までの経緯を説明します。
1-1.古いインバータのパラメータを読みだして交換作業を実施した
設置されているインバータは、10数年経過しているものでした。今回の交換対象は2台。それぞれからパラメータの読み出しを実施、2台とも同じパラメータであることを確認しました。
電源をOFFして、テスターで無電圧であることを確認しました。その後、図面通りの配線であることを確認してから作業開始。
交換する新しいインバータは、設置されているものと同じメーカーの後継機種にしました。運転したら「なんか違う」と言われても困るので、メーカーが後継に推奨しているものとしました。
古いインバータを取り外して、新しいインバータをその場で開封して取り付けました。
1-2.新しいインバータの配線確認をして通電した
交換作業も順調に進み、思ったより早く交換作業は終わりました。その後、配線確認をして、通電すべく客先に確認してからブレーカをON。新しいインバータに電源が入り、インジケーターのLEDが点灯しました。
作業前に読み出したインバータのパラメータ書き込みを実施し、正常に作業を終えました。翌日は動作確認の予定でしたので、それまでは通電しておくことにしました。
通電したままにして、1時間ほどしてから様子を見に行きましたが特に問題もなく、その日は作業を終えて宿泊先のホテルへと戻りました。
1-3.新しいインバータの動作試験をするために制御盤を開けたら焼損していた
翌朝、動作試験の準備をするために制御盤を開けました。すると、インバータのインジケーターのLEDが点灯しておらず、他の機器も電源ランプが点いていませんでした。
おかしいと思って扉の受電ランプを見ると、消えてました。「あれ?」と思って、送電している制御盤まで行って確認してみると、漏電ブレーカがトリップしてました。
(あ、これはなんかヤバい気がするな・・・)と思って、施工した制御盤に戻ってよく見てみると、1台のインバータの受電側(1次側)が黒く焦げてます。すぐに客先に連絡して、現状見たことを全て話して、ひとまずインバータを2台とも外すことにしました。
インバータを外す際にカバーを外すのですが、外したら中は真っ黒に!
電線を外す前にどこが焦げているのかを確認しましたが、電線は受電側(1次側)のみ激しく焦げていて、出力側(2次側)も少し焦げていました。他の電線は”すす”がついて黒くなっているだけだったので、ぞうきんで拭いたらきれいになりました。
なぜ運転もしていないインバータの受電側(1次側)が焦げたのでしょうか?
1-4.新しいインバータの受電側(1次側)がなぜ焦げたのか
なぜ新しいインバータが運転していないにも関わらず、焼損したのでしょうか?情報を整理すると以下の通りでした。
・焦げたインバータを外す前に確認したが、配線に間違いはなかった
・制御盤のブレーカはトリップせず、制御盤への送電用ブレーカがトリップしていた
・出力側(2次側)の電線は少し焦げていたが、端子は焦げていなかった
・焼損具合は受電側(1次側)が激しく、受電側の端子も真っ黒になっている
・焼損したのは2台中1台だけだった
ひとまず2台とも外して、古いインバータに戻すことにしました。戻した後、運転確認をしましたが問題なく正常に動作していました。交換工事は続行することは不可能でしたので、出直して再工事することにしました。
それにしても、なぜ通電していただけで焼損してしまったのでしょうか?
2.インバータに通電だけで焼損した原因は?
ひとまず古いインバータに戻すことで運転には支障を与えることはありませんでした。ですが、ただ通電していただけのインバータがなぜ焼損してしまったのでしょうか?
現場状況からの原因の推測、メーカーからの回答と対応について説明します。
2-1.受電側(1次側)が激しく焦げていた
先ほど1-4項で整理した情報から、それぞれの情報による原因を考えてみます。
・焦げたインバータを外す前に確認したが、配線に間違いはなかった
→配線間違いによる短絡(ショート)や電圧違いによる焼損の可能性は低い
・制御盤のブレーカはトリップせず、制御盤への送電用ブレーカがトリップしていた
→トリップ値が同じだったので、どちらが先にトリップしてもおかしくなかった
・出力側(2次側)の電線は少し焦げていたが、端子は焦げていなかった
→出力側(2次側)の原因による焼損の可能性は低い
・焼損具合は受電側(1次側)が激しく、受電側の端子も真っ黒になっている
→受電側(1次側)が激しく焼損していることから、原因である可能性が高い
・焼損したのは2台中1台だけだった
→2台とも同じ電源系統であることから、受電による可能性は低い
これらの情報をさらに整理すると、原因の推測はおおよそ出来ます。
2-2.インバータの初期不良が原因としか思えない
情報をさらに整理したことで、原因を推測することができます。
・配線間違いもなく、2台のうち1台だけが焼損している
→共通する事象ではない可能性が高い
・焦げている電線は受電側(1次側)の3本だけ、他は”すす”がついていたが焦げてない
→受電側(1次側)に原因は絞られる
・インバータのカバーを開けると、内部が黒焦げになっていた
→内部で焦げて、その後電線も焦げた可能性が高そう
・受電後はブレーカで分岐しているが、元は同じ電源系統である
→受電からの過電流やサージ電圧ではない
ここまで絞ると、原因はインバータ内部である可能性が高く、初期不良の類ではないかと推測できました。
しかし、実際には製作したメーカーに調査報告書を作成してもらわない限りは何とも言えないので、インバータを2台ともメーカーに調査してもらう必要が出てきました。
2-3.焼損したインバータをメーカーへ送って調査依頼、回答は予想通りの『初期不良』
焼損したインバータと、同じタイミングで購入したインバータ2台をメーカーへ送って焼損の調査を依頼しました。後日届いたメーカー回答は『サージ流入』か『初期不良』との見解でした。同じ電源系統ですので、サージ流入であれば2台とも焼損しているはずです。
また、同じ電源系統の分岐で直流電源なども接続されていますが、焼損していませんのでサージ流入はあり得ないと言えます。
これら事情を踏まえても『サージ流入』の可能性があるのか、もう一度回答するようにメーカーへ依頼しました。
2-4.メーカーは『初期不良』を認めたが、調査費を請求してきた
その後、メーカーより再回答が届いたのですが、内容としては『初期不良』を認める形となりました。メーカー側の不具合なのですが、調査費用が掛かかるということで調査費の請求がありあました。調査依頼時に言われていたことなので請求通りに支払いはしましたが、何とも気分の悪い支払いでした。
焼損品の対応としては、現物新品の交換ということになりました。
このインバータの件に限らず、大手電機メーカー(特に有名な企業において)は初期不良にも関わらず調査費を請求したり、ひどいメーカーでは報告書に「正常に動作します」として正常品が戻ってくることがあります。推測ではありますが、おそらく内部の不良部分を交換したりなどして戻していると思われます。
このようなずさんな対応をされることが今まで幾度となく行われてきており、私も何度も経験しています。日本の悪しき風習なのでしょうか、何とも嫌な気分にさせられます。
その後、新品正常品が届き、再度交換工事をして無事に運転確認し、問題なく正常に動作することを確認できました。
何とか再工事が出来たのでよかったのですが、こんな嫌な目に合わないためにはどのように予防すればよいでしょうか?
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3.インバータ初期不良で仕事に支障を与えないように予防するには?
散々な目にあってしまったインバータの初期不良による焼損ですが、他の部品でも初期不良はあり得ます。部品の初期不良による影響をなるべく少なくする予防策としてはどのようなものがあるでしょうか?
3-1.初期不良そのものを防ぐことは不可能、影響を少なくする予防が必要
初期不良というものは残念ながら一定の確率で起きてしまうものです。メーカー側に依存している部分が大きいので、初期不良そのものを購入する側が防ぐことは不可能です。
初期不良が起きたときの一番の問題点は、客先への納品後に故障(今回の場合は焼損)を発生させてしまったことです。予防策としては初期不良を防ぐのではなく、初期不良が起きてもリカバリーできるようにすることを考える必要があります。
3-2.自社内で出来る通電試験、動作試験は一通りやっておくことが必要
では、初期不良が起きてもリカバリーできるようにするにはどうすればいいでしょうか?
それは、自社内に納品された後、通電試験や動作試験を可能な範囲でおこなっておくことで、初期不良を社内で発見することができます。この予防策をおこなえば、少なくとも客先へ納品後に故障が起きてしまうような事態にはならずに済みます。
4.さいごに
今回はインバータの初期不良による焼損の事例とその予防策について紹介しました。
どの部品においても、初期不良というものは一定の確率で起きてしまうものです。仕事内容によっては工事や納入の延期が認められないものもあります。リスクを減らすためには、事前に出来る通電試験、動作試験を可能な限り期限に余裕をもって社内でやっておくことが最大の予防策となります。
事前にできることをやって、予防に努めておきましょう。
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