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インバータを使った回路を設計しようとして、インバータを選定するときにカタログにあった接続例。
そこにはインバータの1次側に電磁接触器が書かれていました。
素朴な疑問として「この電磁接触器はいるの?」と思ったことはありませんか?
私自身も若いころに同じことを思いました。
実は、1次側の電磁接触器は設置した方がいいです。
なぜなのか、それはメーカーが推奨している理由が分かれば納得できます。
このページでは、インバータの1次側に設置する電磁接触器を設置する理由についてご紹介しています。
読み終えれば、あなたもインバータを使用した回路で電磁接触器の設置について悩むことはなくなります。
目次(概要)
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1.インバータ回路についての問い合わせ
ある方から、当サイトへ以下のようなお問い合わせをいただきました。
インバータの取説には、MCCBの下に電磁接触器をつけその下にインバータを付けるよう記載がありました。
電磁接触器はモーターの過電流に対して保護ができないので、モーターの保護という意味では電磁開閉器でないと意味がないのでは?
と思ってしまうのですがいかがでしょうか。
電磁開閉器ではなく電磁接触器をつける意味はなんなのでしょうか。
質問の趣旨をまとめると以下の通り。
- インバータの1次側には電磁接触器が必要なのか?
- 電磁開閉器ではないのか?
この疑問を解決するには、なぜ1次側に電磁接触器を設置するようにメーカー側が推奨しているかという理由を知っておく必要があります。
それでは、インバータの1次側に電磁接触器が必要な理由を説明していきましょう。
2.インバータの1次側に電磁接触器の設置を推奨する理由
まずひとつめの疑問点である「インバータ1次側への電磁接触器の設置」について。
メーカー側がインバータの1次側へ電磁接触器の設置を推奨するのは、大きく分けて3つの理由があります。
それぞれについて説明します。
急な再始動の防止や緊急停止をするため
急な再始動の防止
インバータは制御回路からの運転信号で正転出力、逆転出力をします。
運転信号が無ければ、インバータは停止します。
運転信号がONのまま、一旦主電源をOFFして再度主電源をONしたら…
急に動き出しますよね。
落雷やその他事由による急な瞬停(瞬間的な停電)時には、主回路の電気は切れます。
同時に制御回路も電気は切れます。
しかし、制御電源をUPSで保持していたり、DC電源を使用している場合は制御回路の電気は切れません。
DC電源の場合は内臓しているコンデンサの影響によって、ほんのわずかな時間ですが保持していることがあります。
この場合、運転指令はONのままで停電が復旧すると…インバータは急に再始動します。
予期せぬ再始動は事故やトラブルの元です。
予期せぬ再始動を防ぐ目的で電磁接触器を設置します。
電磁接触器のON条件に以下の通り組み込んでおけば、急な再始動は防げます。
電磁接触器のON条件(AND)
- 主電源ONを監視する接点
- 運転準備指令(機器主電源ON指令)
運転準備指令と主電源ONのAND条件で電磁接触器がONし、運転準備指令は電磁接触器のONを確認したらOFFする回路とします。
主電源がOFFすると同時に電磁接触器はOFFしてインバータの主電源はOFFとなります。
主電源OFF後、電源復旧しても運転準備指令がOFFならば急な再始動はしません。
インバータの1次側に電磁接触器があれば予期せぬ急な再始動は防ぐことが可能です。
緊急停止するため
緊急停止は、電磁接触器の制御条件に非常停止ボタン等を絡ませておくことで、電磁接触器を強制的にOFFすることができます。
制御回路またはPLCプログラムのミスやバグによってインバータが止まらない状態に陥ったときに非常停止が有効となります。
また、人が介在する機器では非常停止はとても有効な手段です。
有無を言わさず強制的に電源を遮断するためにも電磁接触器はインバータの1次側に設置しておくことが望ましいです。
焼損防止のため
何らかの原因でインバータ本体が故障した場合、故障事象によってはインバータに電流が流れ続けて焼損する可能性があります。
インバータからの故障信号によって電磁接触器をOFFすれば、焼損するような電流が流れ続けることは防げます。
インバータが故障しているのだから、インバータの故障信号は信用できないのではないか?という疑問もあるかと思います。
外部の機器によってインバータ本体が故障したことを検知する方法はありません。
よって、インバータからの故障信号以外ではインバータの故障は検知できないのです。
インバータから故障信号がないけれど故障したのでは?と疑わしい場合には、前述した『緊急停止』によって焼損を防ぐことが可能です。
インバータ故障時の焼損防止として電磁接触器を設置することが望ましいです。
メーカー側としては焼損防止が第1の理由で推奨していると思われます。
点検時に該当インバータのみ停電可能にするため
動力電源回路では、ひとつのMCCBから複数機器に電源供給をすることがあります。
この場合、ある機器だけ点検や修理をしたい場合に、MCCBを遮断することで全ての機器が停止します。
例えば、ひとつのMCCBから3台のインバータA、B、Cに電源供給していたとします。
Bだけ故障が疑わしいので交換したい場合、電源を遮断しないと交換できません。
MCCBをOFFして交換を実施することになるので、インバータAとCは運転したままにしたかったとしても停止せざるを得ません。
点検や保守時には対象機器の電源をOFFします。
インバータ1台に対して1次側に電磁接触器を全て設置していれば、電磁接触器のON条件にメンテナンス時にオープンとなる接点を割り込ませることで該当機器のみ電源を遮断することが可能です。
点検対象の機器のみ停止させることを可能にするために、電磁接触器を設置する目的があります。
3.電磁開閉器ではないのか?
次の疑問点である「電磁接触器ではなく電磁開閉器ではないのか?」という部分。
これは、インバータの内部構造や仕組みを理解していれば何となく分かるかもしれません。
インバータの仕組みについては以下のページをご覧ください。
インバータの1次側の電流値は、実際にモーターへの電流値と異なることがあります。
これは、インバータでの始動時には低電圧、定格に近づくにつれて高電圧へと変わっていくためです。
インバータには電子サーマル機能が内臓されています。
モーター保護目的であれば、インバータのサーマル機能を使って保護します。
インバータへの過電流保護は、電磁接触器で焼損を防止するかブレーカによる遮断で行います。
メーカーの説明でも『配線用遮断器を使って保護するように』と記載がありますので従いましょう。
インバータ1次側には電磁開閉器ではなく電磁接触器の取り付けが推奨されています。
4.インバータは電磁接触器がないと運転できない?
ここまでの説明でインバータの1次側に電磁接触器が必要な理由は分かりました。
「電磁接触器がないと運転できないの?」という声が上がってきそうですね。
結論から言えば、電磁接触器は無くても運転可能です。
しかし、前述したような焼損防止や急な再始動の防止対策が出来ない部分もあります。
個別に電磁接触器を用意せずとも前述した防止策を有効にするには、動力電源回路の1次側に大きな電磁接触器を設置するという方法もあります。
大きな対象機器を動かす回路などではよく使われる手法です。
上の図のように制御盤の受電後にMCCBを設置、MCCBの2次側に大きめの容量の電磁接触器を設置します。
電磁接触器の2次側から個別の対象機器へ動力電源を供給する回路です。
個別機器ではなく全体をON/OFFすることになってしまうものの、無いよりはいいでしょう。
ひとつの手法として覚えておくといいですよ。
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5.インバータの仕組みはしっかり理解出来てる?
インバータの1次側に電磁接触器を入れるようにメーカーから推奨されている理由は前述の通りです。
ところで、あなたはインバータの周波数が変わる仕組みを理解できていますか?
機器の仕組みを理解しておくことで、ユーザーにメリットのある制御を提案できるようになりますよ。
いい提案をされれば、相手も喜んで次の仕事に結びつく可能性は高まります。
あなたの評価も高まって、会社も売り上げが良くなれば WIN-WIN-WIN の関係。
みんなが喜んでくれたら、設計冥利につきますよね。
もし理解できていないのであれば、以下のページにまとめてありますのでご覧ください。
インバータはどんなときに使う?仕組みと使用目的、得られる効果や具体例
6.さいごに
ここまでの要点をまとめました。
インバータ1次側の電磁接触器の設置理由
- 急な再始動の防止や緊急停止をするため
- 焼損防止のため
- 点検時に該当インバータのみ停電可能にするため
- インバータ1次側と2次側の電流値は異なる
- モーター保護はインバータのサーマル機能で
お問い合わせの内容を見て、同じように悩んでいる方もいるかもしれないと思ったことからご紹介しました。
少し設計経験のある方向けではありますが、電気設計をしていればインバータを使った設計は通る道です。
上記の要点のみ覚えておくだけで問題ありません。
根拠が分からなくなったら、またこのページを読んでください(笑)
インバータを使った回路を設計する際は思い出してくださいね。